前回記事→バイオマス発電が直面する課題~バイオマス発電市場動向(2)
バイオマス発電所の現状
輸入燃料の調達
イーレックス(株)がFIT制度の下で運営しているバイオマス発電所は、大船渡バイオマス発電所(持分法適用会社、発電出力:75MW)、豊前バイオマス発電所(75MW)、(50MW)、土佐発電所(20MW、高知県)、中城バイオマス発電所(49MW、沖縄県)の5カ所だ。イーレックス(株)燃料部燃料取引担当課長・後藤寛明氏は、「これらの発電所の燃料のほとんどがPKSであるため、イーレックスは年間100万tのPKSを購入しています」と語る。加えて、(仮称)坂出林田バイオマス発電所(75MW)を建設中しており、25年から営業運転開始の計画だ。イーレックスはFIT制度の下で、合計容量約350MWのバイオマス発電所の建設・運営を行っている。
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非FIT発電所では、新潟県新潟東港で世界最大級となる発電出力300MWのバイオマス発電所を開発しており、26年に営業運転を開始する計画だ。この発電所では、成長の速い植物「ニューソルガム」を主要燃料に使用する予定だ。「非FIT発電所では、厳しい電力価格競争に晒されるため、より安いバイオマス燃料を開発したいと考えたことがニューソルガムを導入したきっかけです」(後藤氏)。自社のニューソルガム生産工場で試験的に作付し、播種から栽培に関わっているという。
また既存の石炭火力発電所を大型のバイオマス発電所に転換して運営することを目指し、22年8月1日に、新潟県の糸魚川発電所(非FIT発電所、定格出力149,000kW)の株式譲渡を完了した。ベトナムでは、バイオマス発電所14件の新設計画を進めている。
「バイオマス発電燃料は、取引先からの調達に加えてイーレックスグループでも調達し、燃料調達先の多様化を図っています」(後藤氏)。東南アジアにおける燃料の確保拠点として17年6月に設立したerex Singapore Pte Ltdでは、PKSや木質ペレットの輸入販売、プランテーション企業とジョイントベンチャーを設立するなどの投資を行っている。またマレーシアのPKS集荷拠点としてStraits Green Energy Sdn Bhd、インドネシアのPKS集荷拠点としてPT Dharma Sumber Energiを設立し、GGL認証を取得したPKSを調達している。ここで調達した燃料は、日本の他のバイオマス発電事業者にも販売している。
PKS燃料の品質確保
後藤氏はPKSの自社の品質規格について、「パーム核粕(PKE)やミネラルなどの異物混入を最小限にすること、塩素500ppm未満、ナトリウムとカリウム計2,000ppm未満、水分の管理、防塵、臭いが少ないことなど品質規格としています。たとえば、塩素が原因でパイプなどの金属が腐食したり、ナトリウムやカリウムの塊がボイラーのなかにできたりするのを避けるためです。日本市場にふさわしい品質の燃料が、インドネシアのPKS輸出企業から提供されることが望まれます」と語る。
項目 | 規格 |
水分 | 18~20% |
熱量 | 3,600kcal/kg以上 |
塩素 | 500ppm未満 |
ナトリウムとカリウム合計 | 2,000ppm未満 |
異物 | 0.3%未満 (炭酸カルシウム含む) |
ふるい分け設備 | 金属分離機付の2インチ未満メッシュでふるい分け |
貯蔵庫 | 岩、石、砂などの異物の混入を避けるコンクリートの床もしくはそれと同等の設備 |
下記のような品質のPKSは、輸入時に見直しが必要となりやすい。
(1)地面の上にPKSを直接積み上げて保管したため、PKSに土が混入している。
(2)倉庫の床にPKEの粉が薄く残っていたため、PKSにPKEが混入している。
(3)水分量が30%と高い。
(4)繊維の含有量が多い。繊維が多いと塩素の含有量が多いため、PKSを燃やしたときにボイラーが腐食してしまう。
(5)船積み時にPKSを仮置きするストックパイルに塵が溜まっている。
(6)CPO工場でのCPO分離時に加えた炭酸カルシウムの残渣がPKSに混ざり、PKSに炭酸カルシウムが付着している。
(7)PKSにCPOが混ざっている。

佐伯発電所で利用しているPKSは、女島埠頭にある容量4万t のPKSヤードで保管しているが、保管時に、ボイラーにダメージを与える石、木、プラスチックなどの異物を取り除いている。塵が多かったり、臭いが強かったりする場合は、消臭剤入りの水を散布して塵が舞わないように対策している。
「イーレックスは年間100万tのPKSを購入していますが、90%はインドネシア産です。インドネシアの輸出事業者から品質の安定したPKSを確保できなければ、他の代替燃料を検討せざるを得なくなるため、よい品質の燃料を確保できるよう努めたいと考えています」(後藤氏)。
つづきはこちら→PKSの輸出・第三者認証~バイオマス発電市場動向(4)
※1 出典:(株)矢野経済研究所「バイオマスエネルギー市場に関する調査(2021年)」(21年10月28日発表)
(つづく)
【石井 ゆかり】