ロシアがウクライナに侵攻する前から、世界中で食品に用いられている植物油の供給はひっ迫していた。国際食糧政策研究所上級研究員で元米国農務省(USDA)主任経済研究員のジョー・グラウバー氏によると、植物油が不足しているのは、カナダで昨年、菜種油の原料となる菜種の畑で干ばつが起こったことや大豆油を原料とした再生可能ディーゼルが台頭したことがきっかけとなったが、今ではウクライナ危機に関連してひまわり油などが輸出禁止となったことが大きな原因となっているという。
グラウバー氏は「植物油の供給の仕組みに問題が起きています」と話し、世界の植物油の市場価格は今年2月から30%上昇したと強調した。
ケニアのデータ分析会社Gro Intelligenceによると、マレーシアとインドネシアが世界のパーム油の92%を輸出しているが、インドネシアがパーム油の輸出を禁止したため、パーム油の価格は今年に入ってから現在までに75%上昇している。国際食料政策研究所によると、インドネシアから国内のパーム油需要の80%にあたる160万トンを輸入するバングラデシュのような国では、パーム油を購入することが非常に困難となっている。
グラウバー氏を含む同研究所の研究者らは最近公開された投稿によると、「植物油は世界の食事に欠かせない重要なエネルギー源であり、毎日の食品から摂取するカロリーの約10%を占めています。植物油は、穀物に次いで2番目に重要な食品グループとなっています」と報告している。
EUはひまわり油の不足により、とくに大きな打撃を受けている。欧州植物油・タンパク質食品産業協会は、「年によって異なりますが、欧州の植物油の製油所では、欧州で消費されるひまわり油の35~45%をウクライナから調達しています。ウクライナは、ひまわり種子油の主要な輸出国です。他の植物油輸出国も同様に供給不足に直面しているため、ひまわり油を他の植物油にすぐに置き換えることは困難であり、不可能となる可能性があります」と発表している。
ウクライナは鉄道を使って、限られた量を欧州に輸出することに成功しているが、貿易はほとんど閉鎖されているため、欧州ではひまわり油の流通に支障が出ている。ひまわり油は世界で取引されている植物油の13%を占めており、ウクライナはこれまでひまわり油市場で約50%のシェアを占めてきた。
コンサルティング会社のAPK-Informによると、ウクライナで多くのひまわり油が出荷されたとしても、戦争で多くの加工工場が閉鎖されたため、ウクライナではあまり生産ができない。精製された植物油は、2月24日のウクライナへのロシアの侵攻前に比べて40%多く売れているという。
食品は、代わりにほかの植物油を使うことができる。離乳食などの原料にひまわり油を使用しているヨーロッパ企業は、代わりとなる植物油を探すために奮闘しており、政府の食品安全機関に代替植物油に関する許可を求めている。
欧州植物油・タンパク質食品産業協会によると、「EUでは、ウクライナ産の商品、とくにほかの植物油にすぐに代えることができないひまわり油が不足しているため、市場に影響が出ています。製造業は、ひまわり油をできる限り(菜種)油に置き換えるために、製品仕様を再開発することを決定し、すばやく対応しています」という。
米国では植物油は不足していないが、米国はひまわり油を輸入しているため、世界的な供給体制のひっ迫により、植物油の価格が上がっている。Gro Intelligenceによると、「米国では、食品メーカーが一般的に使用する植物油の価格が1年以上前に比べて42%高くなり、過去2年間で152%上昇しました。植物油の価格は、食品全体の価格の上昇幅を上回って値上がりしています」という。
インドネシア政府がパーム油の輸出禁止をいつまで続けるかは不明だ。しかしGro Intelligenceは、備蓄できる容量は限られているため、政府がパーム油の輸出禁止を長期間維持できるとは考えていないと発表している。インドネシアのパーム油の月間生産量は230万トンであるが、備蓄できる設備の容量は200万トンしかないためだ。
Gro Intelligenceによると、「パーム油の輸出禁止を開始したときに貯蔵タンクが完全に空であったとしても、インドネシア政府は貯蔵タンクが溢れないように、5月26日または5月第4週までに輸出禁止を緩和することを余儀なくされるでしょう」という。グラウバー氏は、インドネシアのパーム油禁止措置が長く続くと予想されていなかったという報告を気に留めたが、今年中は輸出禁止が続く可能性があると話した。
出典:インドネシアパーム油協会(IPOA) 5月13日付
(記事の出典:agri-pulse.com)