停電時でも電力供給
停電などの非常時には東北電力の送電線から切り離す「オフグリッド」を行い、太陽光発電と蓄電池を止めて、非常用発電機のみを稼働させることで、すべての住宅と施設に電力を3日間供給できる。3日を越える大規模な停電の場合は、住宅への電力供給を止めて、集会所や病院など一部の施設のみに電力を供給する仕組みだ。非常時に太陽光発電の電力を用いるためには、太陽光発電の電力を安定供給するための蓄電池を設置することが必要となるため、エコタウンでは、停電時には太陽光発電の電力を利用していない。沢尻氏は「5年前に台風の落雷により近くの変電所にトラブルがあり、午前1時から2時半頃にかけて停電が起こりましたが、非常用発電機を稼働させたおかげで電力供給を止めずに乗り切ることができました」と語る。
地域エネルギー事業部マネージャー・沢尻由央氏-scaled-e1665626612723-1024x678.jpg)
.jpg)
エコタウン運用の現状
エコタウン内の住宅には、東北電力の電力プランと同等の価格で電力を供給している。2016年のエコタウンの建設時は、入居者から「何かあったときにも電力が供給されるため、安心できる」という声があったという。今は、エコタウンという認識の有無に関わらず多くの人が入居している。近年は電力の高騰により、住民のエネルギーに対する意識が高まっているという。
と防災エコホスピタル地区(ピンク色)(東松島市資料より).jpg)
エコタウン建設費用の4分の3は環境省から補助を受けており、建設費用の4分の1は17~18年で回収できる見込みだ。地域マイクログリッドは小規模なエリアに設置するため、配電網の設置コストが通常より高く、行政の補助金がなければ実現は難しいという。また、マイクログリッドは電力利用者の規模や数、発電施設への投資の有無により、運用時の事業収支は大きく変わる。たとえば、発電設備として太陽光発電1MWがあり、電力消費者として低圧電力である住宅が1,000件の場合は、大規模な発電設備に対して住宅の電気代が収入となるため、回収できる費用は少ない。しかし、公共施設などの高圧電力を用いる施設があり、再エネの設備が小さければ、マイクログリッドの設備費用を電気代で回収できる可能性が高い。
「今後、再エネを活用した地域スマートグリッドを設置する自治体が増え、昼は太陽光発電で発電した電力を自家消費し、夜は大手電力会社から電力を購入する住宅や施設が増えると、大手電力会社から購入する電力は減ります。しかし、送配電側の維持管理コストは変わらないため、送配電網を利用する託送料金が上がる可能性があると考えられます」(沢尻氏)。
東松島市スマート防災エコタウンは東松島市が主導して設立しているため、行政が事業主体として最終責任をもち、送配電設備などのインフラ投資を行っている。民間主体で行うのであれば、維持管理や配電設備、売電のノウハウも必要となる。「エコタウンをつくる場合は、誰が事業主体となるのかが、最も大きな課題になります。エコタウンの構想があっても、事業主体となる地域の会社がなかなか決まらないことが多く、何のために取り組むのか、誰が責任をもつのかを明らかにすることが必要です。エコタウンは利益が薄い事業であり、『防災』をビジネス化するのは難しいことも実情です」(沢尻氏)。
東松島市は環境省の脱炭素先行地域に今年4月に採択されており、2030年までにカーボンゼロを目指す取り組みの1つとして、マイクログリッドとともに、一般住宅や施設の屋根に発電設備を設置し、発電した電力を供給する「オンサイトPPA」を行う予定だ。そのなかで、HOPEは今後、環境省からの補助を受け、一般住宅の屋根に太陽光発電の自家消費設備と蓄電池を設置した「オンサイトPPA」により、停電時にも電力を供給できる自立型の仕組みづくりに取り組んでいく。
(了)
【石井 ゆかり】