日本三景として知られる「松島」があり、仙台市と石巻市の間に位置する宮城県東松島市。東松島市は東日本大震災が起こった翌2012年に、「東松島市復興まちづくり計画」により、自立分散型エネルギー都市の試みである「東松島市スマート防災エコタウン(以下、エコタウン)」を建設した。エコタウンの管理を行う(一社)東松島みらいとし機構(HOPE)地域エネルギー事業部マネージャー・沢尻由央氏に、地域マイクログリッドによる自立分散型エネルギー供給の取り組みについて聞いた。

太陽光発電の電力を供給

 「東松島市スマート防災エコタウン(以下、エコタウン)」では、東松島市が自ら電線や電柱をつないだ「自営線」を使って、災害公営住宅(※)85件や病院4施設、運転免許センター1施設などに向けて、太陽光発電や蓄電池、停電用の非常用発電機を用いて電力を供給している。分散型の発電所と電力を消費する住宅や施設を電力網でつなぐ「マイクログリッド」と呼ばれる仕組みだ。(一社)東松島みらいとし機構(HOPE)地域エネルギー事業部マネージャー・沢尻由央氏は「マイクログリッドにより、エコタウン内の太陽光発電による電力が住宅や施設にそのまま供給されます。雨の日や夜など太陽光発電による電力が不足するときは、一般送配電事業者の系統網から電力調達を受けています」と語る。

(一社)東松島みらいとし機構(HOPE)地域エネルギー事業部マネージャー・沢尻由央氏
(一社)東松島みらいとし機構(HOPE)地域エネルギー事業部マネージャー 沢尻 由央 氏

 東日本大震災後、東松島市でも再エネに注目が集まり、「再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)」による発電施設が増えた。しかし、FITを用いると発電設備を市内に設置しても地域外に電力料金が流れてしまうため、地域経済を循環させたいという思いから自営線構築を採用している。東松島市としてエコタウン事業に取り組むことで、住民のエネルギーに対する意識が高まっている。

 エコタウン内の太陽光発電所は、一時的に雨水を溜める調整池(400kW)のほか、防災拠点となる集会所の屋根(9.1kW)と集合住宅15戸の屋根(49.9kW)の合計3カ所に設置されている。全消費電力のうち約25%を太陽光発電で賄っており、季節ごとに見ると、夏場は約30%、冬場は約10%となっている。

 太陽光発電を選んだ理由は、東松島市は海岸部で日照時間が長く、晴れた日が多くて雪が少なく、太陽光発電のポテンシャルが高いためだ。一方、太陽光以外の再エネを導入する可能性は低いという。水力発電は川下地域であるため大型の発電を行うのは難しく、バイオマス発電は、林業が盛んな地域ではないため、地域で燃料を確保しにくい。また、風力発電は、市内南側の海辺に航空自衛隊の松島基地がある関係で高い施設を建てられず、西側は特別名勝松島があり、景観を守るために建設できないという。

蓄電池を利用

 エコタウンでは、停電などの災害時に防災対策として活用するため、鉛蓄電池を導入している。また、蓄電池により、冬場の朝など電力の需要が多い時間帯に放電することで最も電力を利用する時間帯の電力を削減する「ピークカット」や、電力の安い夜の時間帯に市場から電力を調達して蓄えておき、電力が高くなる昼間に放電する「ピークシフト」を行い、調達料金を削減している。

 一方、鉛蓄電池の容量は480kWと非常時に集会所のみに最低限の電力を供給できる規模であり、エコタウンの電力利用量に対して大きな容量ではない。蓄電池を利用している頻度もそれほど多くないため、蓄電池自体の投資費用を回収するのは難しいという。

 現時点では蓄電池のコストが高く、大規模な蓄電池を導入しても、それに見合う費用対効果が得られるかどうかはわからないという。蓄電池は導入コストが高いため、補助金を利用しなければ導入が厳しい状況だ。

 また、エコタウンは、1つのポイントで東北電力の既存の系統につながっているため、公共施設や集合住宅など全体の電力需給をエコタウン用システムで管理している。このシステムはスマートメーターで各住宅や施設の電気メーターの検針が不要となるため、事務的コストが削減されている。また、請求書の発行や蓄電池の充放電の制御、電気の流れる量を定めるアンペア数の変更を行うため、小売電気事業の管理システムも利用している。これまで専門家でなければできなかった作業をシステムで賄うことができるため、専門家が少なくても運用できるという。

(つづく)
【石井 ゆかり】

※ 災害の被害認定を受け、自力再建が難しい場合に入居できる住宅。